【コラム】ジャパニーズウイスキーの表示に関する基準を解説します〜中編〜

日本洋酒酒造組合にて、2021年2月にジャパニーズウイスキーに関する自主基準が制定されました。

ウイスキーにおけるジャパニーズウイスキーの表示に関する基準
http://www.yoshu.or.jp/statistics_legal/legal/pdf/independence_06.pdf

本コラム前編では、基準が制定された背景と経緯、その意味合いについて書きました。

基準の内容は、大きく分けて2つ

基準を一読しただけは分かりにくいかと思いますが、今回の基準では下記の2点について規定されています。

1)「ジャパニーズウイスキー」と表記できるための基準
2)「ジャパニーズウイスキー」ではないウイスキーが、日本的な商品名を使うための基準

中編では、1のジャパニーズウイスキーと表記できるための基準について、解説しましょう。
以下、青枠で囲まれた部分が、基準の中の項目の抜粋となります。

第 3 条(適用範囲)
本基準は、事業者が日本国内において販売するウイスキー及び日本から国外向けに販売するウイスキーについて適用する。

全世界で適用となる

今回の課題が、国内はもとより、海外で販売されているウイスキーで大きな問題になっているため、国内外を問わず、全世界で適用されます。

第 5 条(特定の用語の使用基準)
次の表の左欄に掲げるウイスキーの特定の用語の表示は、当該ウイスキーがそれぞれ同表の右欄に掲げる製法品質の要件に該当するものであるときに限り、当該ウイスキーに表示することができるものとする 。
特定の用語: ジャパニーズ ウイスキー

「ジャパニーズウイスキー」は、厳格な基準を満たしたウイスキーのみ

今回の基準では「ジャパニーズウイスキー」という表示をできる要件を、厳しく規定しています。ここに合致しないウイスキーは「ジャパニーズウイスキーではない」ことを何らかの方法で明示する必要があります。

製法品質の要件
原材料
原材料は、麦芽、穀類、日本国内で採水された水に限ること。

水は国内採取のみ、麦芽、穀類は外国産もOK

水については、国内で採水された水という基準がありますが、麦芽と穀類は、外国産で構わないことになります。国産の麦芽や穀類は外国産と比べて高価なため、ほぼ全てのウイスキーで外国産が使われています。

ジャパニーズウイスキーでも国内産の原材料が使われるケースは稀です。弊社のシングルモルト「プロローグK」では、原酒の50%超が国内産麦芽ですが、これは特殊なウイスキーと言えます。

なお、麦芽は必ず使用しなければならない。

焼酎や泡盛は、ジャパニーズウイスキーではない

麦芽の使用を必須としていることから、麹で糖化させた焼酎や泡盛はジャパニーズウイスキーとして販売できなくなります。

ここは今回の基準の大きなポイントのひとつです。

海外では、泡盛や焼酎など、日本の酒税法上でもウイスキーに該当しない原酒を樽熟成して、ジャパニーズウイスキーと称して販売している商品があります。外国の法律では、麹を使って糖化するお酒を想定していないため、糖化に関する規定が存在しない場合があるからです。

個人的に、ウイスキーにはウイスキー造りの作法があると考えています。他のお酒の造りの常識を持ち込んでウイスキーを仕込んでも、美味しいウイスキーはできないと感じます。そもそも他の種類として造られたお酒は、その本来の名前で販売されるべきではないでしょうか?

製法
製造
糖化、発酵、蒸留は、日本国内の蒸留所で行うこと。

輸入した原酒の使用は、不可

日本国内で実際に製造した原酒のみ、ジャパニーズウイスキーに使えることになりました。

スコッチウイスキーは元より、国外で製造された原酒は使えません。

多くのブレンデッドウイスキーなどは、海外から大きなタンクで輸入した原酒をブレンド、加水し、ボトリングした上で、和風な商品名やパッケージにして、日本で製造されたかのような日本風ウイスキーとして販売されてきました。そういう商品は、ジャパニーズウイスキーを名乗れなくなります。

グレーン原酒も国内製造に限る

これはグレーンウイスキーにも適用されます。

グレーンウイスキーは、販売価格を下げるため、とうもろこしなどを主原料として、大規模な生産に適した連続式蒸留機で製造される場合がほとんどです。非常に多額の設備投資が必要となり、その稼働にもコストがかかり、生産されるグレーンウイスキーの量も多量になります。そのような設備は、業界として総量規制を設ける考えがあるため、免許の取得以前に、設備の設置自体に財務大臣の許可が必要となっていて、簡単には参入できません。

しかしながら、グレーンウイスキー自体は単式蒸留機でも造ることはできます。生産量は少なく、製造コストも上がってしまうため、販売価格は上がってしまいますが、グレーンのジャパニーズウイスキーは小規模でも製造できます。実際に、鹿児島の小正醸造さんでは、焼酎用の単式蒸留機で2回蒸溜することで、グレーンウイスキーを製造されているそうです。

販売価格が高くても、クラフトのシングルグレーン・ジャパニーズウイスキーやブレンデッド・ジャパニーズウイスキーに価値があると認めていただければ、ひとつのジャンルとして育っていくことになるでしょう。

熟成、瓶詰は、蒸留所でなくとも良い

熟成、瓶詰は後述する内容になりますが、本項には含まれていません。つまり、国内の蒸留所で行わなくて良いということです。

弊社のような小規模な蒸留所は、糖化から瓶詰まで一貫して蒸留所内で行うことが多いでしょう。しかし、ある程度大きな規模のメーカーになると、熟成と瓶詰はそれぞれ別の場所で行うことが普通です。

貯蔵
内容量 700 リットル以下の木製樽に詰め、当該詰めた日の翌日 から起算して3年以上日本国内において貯蔵すること。

熟成は3年間以上の規定が復活

熟成の期間が、3年以上と規定されました。

樽での熟成は、製造工程の大切な一部です。しっかりとした基準を設けることで、熟成の品質を担保することができます。

スコットランドのウイスキーをお手本とした日本のウイスキーは、熟成についても3年以上という、スコットランドと同じ基準を取り入れていました。

実際、1953年に酒税法が改正されるまで、熟成期間3年以上という規定が存在していました。戦後の経済の急成長時代に、ウイスキーの供給量を増やすために規制緩和で撤廃されたという経緯になります。元々は存在していた規定を、復活させた形になります。

また熟成の工程も、日本国内において行うことが規定されています。海外で追加熟成をしたものや、そもそも海外で最初から熟成したものは認められません。

貯蔵
内容量 700 リットル以下の木製樽に詰め、当該詰めた日の翌日 から起算して3年以上日本国内において貯蔵すること。

樽サイズを制限して、熟成の品質を担保

700リットル以下の木樽という部分もスコットランドに準じます。

樽の容量は、熟成の早さに関係します。小さい樽ほど早く、大きい樽ほどゆっくりと熟成が進みます。原酒の体積に対して、樽と接する表面積の比率が関係しています。弊社でも50リッターのオクタヴは、200リッターのバレルより、熟成が早く進みます。

樽の容量は、樽から原酒が大気中に揮発する現象である「天使の分け前(エンジェルズ・シェア)」にも関係します。天使の分け前は、小さい樽ほど大きく、大きい樽ほど小さくなります。これも熟成と同じく、体積と表面積の比率の違いに起因しています。

空間の利用効率や、コストという点では、大きい樽ほど良くなりますが、熟成は遅くなります。小さい樽は、場所やお金はかかりますが、熟成は早くなります。スコットランドと同じ基準を導入したことで、世界的に通用する基準だと言えるでしょう。

自由に木を使えるのは、日本ならでは

使用できる木の種類については、スコットランドがオークに限っているのに対し、今回の規定では自由度が認められています。栗や桜や杉といった樽を実際に使っている日本の実情に即した内容です。

瓶詰
日本国内において容器詰めし、充填時のアルコール分は 40 度 以上であること。

ボトリングも国内にて行うこと

ジャパニーズウイスキーは、ボトリングも日本国内にて行わなければなりません。

ここはスコッチウイスキーよりも厳しい規定になっています。スコッチウイスキーのシングルモルトについては、このようなスコットランド内でボトリングする規定があります。

一方、ブレンデッドについては英国政府の認証を受けた業者に限り、国外でのボトリングが認められています。しかし、ジャパニーズウイスキーの場合は、ブレンデッドであっても日本国内でボトリングしなければなりません。

これは、スコッチウイスキーが6,000億円超も国外に輸出されているのに対し、ジャパニーズウイスキーは輸出が増えたとはいえ、300億円に満たないという、規模の違いも関係していると思います。

瓶詰
日本国内において容器詰めし、充填時のアルコール分は 40 度 以上であること。

アルコール度数は40度以上に

アルコール度数も、スコッチウイスキーと同じ40度以上となりました。

2  特定の用語は、「ジャパニーズ」と「ウイスキー」の文字を統一的かつ一体的に表示するものとし、「ジャパニーズ」と「ウイスキー」の文字の間を他の用語で分断して表示することはできない。

「ジャパニーズウイスキー」で、ひとつの単語

「ジャパニーズウイスキー」で単語扱いとなるので、途中に他の語を入れることは許されません。

○ ジャパニーズウイスキー
○ ジャパニーズ・ウイスキー
○ JAPANESE WHISKY
○ JAPANESE WHISKEY
○ クラフトジャパニーズウイスキー
× ジャパニーズクラフトウイスキー
○ モルトジャパニーズウイスキー
× ジャパニーズモルトウイスキー

3  第 1 項に定める製法品質の要件に該当するウイスキーについては、公正競争規約に則り表示する ことができるウイスキーのタイプ名を示す用語を特定の用語に併せて使用できるものとする。

タイプを表す単語を付加することは許される

そのウイスキーが、どんなタイプなのかを表す用語を、併せて表示することは許されます。

○ 基準で許される表示の例

モルトジャパニーズウイスキー
シングルモルトジャパニーズウイスキー
ストレートモルトジャパニーズウイスキー
ピュアモルトジャパニーズウイスキー
グレーンジャパニーズウイスキー
シングルグレーンジャパニーズウイスキー
ブレンデッドジャパニーズウイスキー

第 6 条(特定の用語と誤認される表示の禁止等)
第 5 条に定める特定の用語の表示は、日本ウイスキー、ジャパンウイスキー等の同義語で表示する場合、外国語に翻訳して表示する場合又は、種類、タイプ、型若しくは風等の表現を行う場合であっ ても第 5 条に定める製法品質の要件に該当しないときは表示することができない。

「ジャパニーズウイスキー」に該当しない商品は、類似した表示も不可

ジャパニーズウイスキーに該当しない商品は、「ジャパニーズウイスキー」に似たような表示を行うことが、日本でも外国語でもできなくなります。該当していれば、許されます。

対象となるジャパニーズウイスキーの同義語の例

日本ウイスキー
ジャパンウイスキー
日本風ウイスキー
JAPAN WHISKY

以降、後編へと続きます。

後編では、「ジャパニーズウイスキー」ではないウイスキーが、日本的な商品名を使うための基準について解説します。

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